20220524-Food-Waste-Beer-001

"Kuramae White" (right) is "coffee" made from bread crusts, and "Kuramae Black" is made from coffee beans. They are being brewed in the brewing pot in the background. Photo taken in Sumida Ward, Tokyo

パンの耳から「蔵前ホワイト」(右)、コーヒー豆から「蔵前ブラック」。
背後の仕込み釜で醸される=東京都墨田区(重松明子撮影)

~~

 

捨てられていたモノに新たな価値を加え、アップグレードして別の製品に循環させる取り組み。「アップサイクル」がアパレルなどで盛んだが、今回は東京都台東区蔵前のビールに注目したい。サンドイッチ店が処分に困っていたパンの耳を白ビールに、コーヒー店で捨てられていたテスト焙煎の豆を黒ビールに…。品質・安全上問題ないのに廃棄せざるをえなかった〝もったいない〟食材が使われた一杯は、素材の風味が生きて格別だ。モノのサイクルだけではない。下町人情の輪も循環させている。

 

 

悩みの事業ゴミがゼロに

 

「これまで毎月3千円ほどかけて事業ゴミに出していたパンの耳が、今は廃棄ゼロ。それも、こんなにおいしいビールになるなんてびっくり、うれしい」

 

ボリュームのあるカツやフルーツのサンドイッチが人気の「マルセリーノ モリ」で、店主の福地和子さん(58)が声を弾ませた。父の代から、子供もお年寄りも食べやすいようにとパンの耳を落としてきたが、引き取り先のパン粉業者が廃業して、困った。欲しいお客に無料であげても、週あたり20キロ前後も出るため追いつかず、ゴミとなる。

 

「心の負担が重く、餌にできないかと動物園に電話したこともあります」

 

そんな折の昨年6月。 ママ友でコーヒー焙煎店「縁の木」を営む白羽玲子さん(50)が、「ビールになるかも」と声をかけた。その頃、白羽さんが主宰する町内の資源循環活動「KURAMAEモデル」とアサヒビールが連携。コーヒーの廃棄豆を活用したビール開発が、隅田川対岸のクラフトビール醸造所「TOKYO隅田川ブルーイング」(墨田区)で進められていたのだ。

 

サンドイッチ店からパンの耳を回収。蔵前ビールの原料になる=東京都台東区(重松明子撮影)

 

コーヒーが香る「蔵前ブラック」が7月、パンの香ばしさと甘さがやさしい「蔵前ホワイト」が10月にそれぞれ商品化。醸造所併設レストランなどで飲めて、新名物になっている。

 

 

きっかけは昨年3月。アップサイクルに取り組む、アサヒビール社員の古原徹さん(37)のツイッターに白羽さんが共感メッセージを送ったことだ。

 

「下町つながりで連携しましょう」とトントン拍子に話が進んだ。現在、アップサイクル活動には町内のカフェなど13店舗が参加。ビールに活用しきれなかったパンの耳やケーキに使った卵の殻なども集め、コンポストで無駄なく堆肥化している。

 

また、地元の福祉作業所に通う障害者が回収に参加しているのも特徴。パンの耳を作業所に持ち帰り、オーブンで焼いてビール原料に加工する。これをビール会社側が買い取ることで、彼らに報酬が生まれる。

 

取材日のサンドイッチ店では、「(パンの耳)重いけど大丈夫?」「力持ちだから平気」という会話も。

 

店主の福地さんは語る。「モノの循環だけでなく、人の輪が広がってゆくのがうれしい。サンドイッチを買ってくれるお客さんも、川の向こうまで行って『ビール飲んできました』『おいしかった』と声をかけてくれる。SDGs(持続可能な開発目標)って堅苦しいものでなく、楽しいから続けられるんですね」

 

 

一方、アサヒグループ側は今年1月、環境保護や社会貢献活動を展開する新会社、アサヒユウアス(東京都墨田区)を設立し、アップサイクルビール事業が拡大中だ。各地で個性的なビールが誕生している。

 

4月には埼玉県狭山市の茶業者と連携してケバ茶(茎の皮)を使った「狭山グリーン」、5月には千葉県山武市の観光農園で余ったイチゴを発酵させた「さんむレッド」を発売し、今後も増える計画だ。

 

廃棄食材だからコストも安くなる? そんな問いに、「特別な手間がかかり、コスト削減にはなりません」と、茂田(もだ)一郎ユニットリーダー(49)。その上で、「地域の方と協力して困りごとや無駄を減らす。ビールを通じてそんな貢献をしてゆきたい」。

 

私も飲んで貢献します!

 

筆者:重松明子(産経新聞)

 

 

2022年5月30日付産経新聞【近ごろ都に流行るもの】を転載しています

 

この記事の英文記事を読む

 

 

 

 

コメントを残す